アドベンチャーゲームの大看板‼ 神宮寺三郎シリーズ第四弾!『時の過ぎゆくままに』堂々完成!
探偵 神宮寺三郎の新作『時の過ぎゆくままに』がいよいよ登場だぜっ!
ファミコン『探偵 神宮寺三郎 時の過ぎゆくままに…』は過去を振り返る形で語られる二つの事件の謎を追いかけるのだ~っ!!
きたー! もちろん刑事の熊さん、助手の洋子くんといったお馴染みのメンバーがドラマを盛り上げる‼ データイーストの会心作『時の過ぎゆくままに』をシブ~く特集弾発射あ~~!!どらららっ!
←ゆっくりと浮かび上がるタイトルの文字に静かな期待が沸き上がる!!
あたたかい雰囲気のBGMが今回の事件のイメージと絶妙にあっているのだっ!
『時の過ぎゆくままに』は一年前に解決済みの二つの事件について神宮寺自身が回想していくというストーリー展開になっているのだからオドロキ!
セピア色のグラフィックが淡い記憶を呼び覚ます!!
”現在”はカラー”過去”はセピア! う~ん、こんなシブい演出をやってしまう神宮寺シリーズ恐るべしっ!!
事務所で暇を持て余していたところ熊さんからズタという犬を預かる神宮寺・・・。
↓熊さんは回想の聞き手になっている!
な、な、なんと今回の神宮寺はほとんど全編セピア調の色合いの中で事件を追うことになるゾっ!! なに? カラーの方が良いって⁉ ふっふっふ『時の過ぎゆくままに』のあじわい深い演出の妙はこのセピア色にあるのだっ!
←こんなに小さな少年が依頼人!?
ここは人間交差点! 登場人物たちの複雑な事情がドラマを彩る!!
『時の過ぎゆくままに』はこれまで以上に登場人物が個性的になっているのだ!!
新宿歌舞伎町に事務所を構える私立探偵。
ヤクザの親分に頼まれて金持ち家族の内輪もめに巻き込まれていく、自己主張薄い型探偵。
御苑洋子
神宮寺三郎の秘書。
新宿駅で迷子になっていた子供を堂々と事務所に連れてきてしまう、私がママよ型助手。
熊野参造
新宿淀橋署捜査課のベテラン刑事。
神宮寺に大型犬を押し付けたり、一年前のことをすっかり忘れていたり、ふむふむそれからどした? 式刑事。
風林豪造
関東明治組の大親分。
明らかにあやしい関係にある信子の頼みを聞いて神宮寺を事件に巻き込む、サリーちゃんのパパ式三島平八。
細川信子
金持ち社長・細川亮介の後妻。
家庭内で起きた盗難事件を神宮寺に頼んで解決させようとしながらも、雲行き次第では往生しなっせ!型泣きぼくろ妻。
細川英二
細川亮介の実の息子。
18歳のときに家を出ていたが、半年ほど前から実家に出戻り寄生しつつ、自分に歳の近い母親と美人の妹を手に入れただと? 罪は重いぞコノヤロー!型ドラ息子。
細川淳子
細川信子の実の娘。
家庭内の環境がよくないことを気にかけている心優しいプータロー女子。英二を若干慕うようなそぶりを見せるのはなぜなんだ? 英二は絶対にゆるさねえ!式ドット美人。
けんいち
迷子の少年。
新宿駅で迷子になっているところを洋子に助けられ神宮寺の事務所に来ることになるが・・・。子供っぽさとこまっしゃくれた部分を使い分ける策士。
ズタ
熊野参造の飼い犬。
熊さんに何をしてしまったのかわからないが神宮寺のもとへ奉公に出されてしまう元警察犬。
ニッキー・シックス
美容院モトリーの店長。
言わずと知れたモトリー・クルーのベーシスト。いつの間に日本で美容室を開いたのかは謎。
ビリケンさん
最近閉店したバーよしえの元店長。
言わずと知れた幸運の神様。いつのまに通天閣から新宿に来たのかは謎。
←普段はこんな風にけんいちとズタは事務所でお留守番をしているのだ!
ファミコン探偵神宮寺三郎の集大成『時の過ぎゆくままに』の登場人物はとっても個性的なのだ!だから人物たちの相関関係がわかりやすくて、自然と物語に入り込んでしまう。う~ん、すごいっ!すごいぞ神宮寺っ!すごいぞデータイーストっ!!
御苑探偵事務所!? 神宮寺と洋子くんが別々の事件を追う!!
防犯ブザー、ポシェット、木切れ、それぞれの嘘、よしえさんに5000円、二つの事件が絡み合っていく・・・。
↑焦りを見せる洋子から真剣さがうかがえる!
←年頃の若い女性は手ごわいのだっ‼
そうなのだ! ファミコン『時の過ぎゆくままに』では神宮寺と洋子くんが別々の問題を解決するためにそれぞれに動くのだっ! 神宮寺のパートでは細川家の絵画盗難事件を調査し、洋子くんのパートではけんいちの母親探しをすることになるぞっ!
こんにちは。モジゃもんです。ここからは僕が”時の過ぎゆくままに”であそぶときにやっている攻略法をお教えします。同じゲームで遊んでいるクラスの友だちの話、くらいの距離感で見てくれるとうれしいです。
その1
コマンド総当たりを二回は繰り返そうっ!!
なんだかんだでコマンド選択式アドベンチャーはコマンドを一つ一つ潰すゲームです!
やっぱりアドベンチャーゲームは各コマンドをすべて試してみることが大事です。単調な作業になりがちなのですが、心を無にして読んだことのないテキストが出てきたときだけ反応するようにぼ〜っと構えると楽ですよ。
その2
軽くメモをして相関関係を把握しようっ!!
物語をより楽しむためにも登場人物の相関図を作るのもマジにおすすめです !
極道と極妻
どう見ても怪しい二人
上記は冗談ですが、相関関係を理解するのは本当に重要です。ゲームとはいってもアドベンチャーは物語を楽しむものなので、登場人物の人となりや人物同士の関係が見えていないとつまらないですよね。テキスト上でしか出てこない人物などが出てきたときの混乱も避けられますよ。
その3
ヘンテコなセリフを楽しもうっ!!
アドベンチャーゲームの面白さの一つには、無茶な言動や行動のコマンドを選択したときなどのセリフや場の空気にそぐわない無機質なテキストのシュールさにあります。
むう~~~~~~。
くっ・・・こ、こいつ!
以上です。スタジオさ~ん!!
では、ここからは私、モジゃもんがじっくり考えて決めた懐かしいゲームをたっぷり遊んで評論させていただいて、再び神作となるサイシンサクか、思い出補正だけが拠り所の懐古ゲームかを考える「ゲーム再神作徒然話」です。
今回遊んだのは『探偵 神宮寺三郎 時の過ぎゆくままに…』(以下時の過ぎゆくままに)です。探偵神宮寺三郎のシリーズは1987年4月にディスクシステムで発売された『探偵 神宮寺三郎 新宿中央公園殺人事件』が第1作目になり、現在まで番外編も含めると20本もの作品が出ています。
更には携帯アプリ版のタイトルも20本以上発表されていて、ハードを跨いで重複する分を除いてもエピソードが30作品以上にも及ぶ、非常に人気の高いアドベンチャーゲーム(以下AVG)です。
発表当初はデータイーストが制作していたのですが、シリーズ第8作目2002年の『探偵 神宮寺三郎 Innocent Black』からはワークジャムに権利が移り、2017年にはアークシステムワークスに本作品の権利を譲受した、という経緯があります。
この辺の話で大事なのはワークジャムに権利が移った際に携帯アプリ版が制作された、ということと、商売や制作に関する権利が移動しても寺田克也さんのキャラクター原案からは逸脱していない、ということだと思います。
携帯アプリ版が制作されたことで知名度とファンがかなり増え、再プレイする人も増えたことと思います。僕もその一人です。この携帯アプリ版が改めて人気を支える礎になったのは想像するに難しくありません。
それと、”ダイダロス問題”を抜きにした上での話ですが、今もなお寺田克也さんの創造された神宮寺三郎のキャラクター造形は忠実に守らています。特にこの点は神宮寺三郎を紐解く上で重要なので、後で詳しくお話ししますね。
『時の過ぎゆくままに』が発売されたのは1990年9月28日になります。名作が多いデータイーストのファミコンソフトの中でも『メタルマックス』と『神宮寺三郎』は現在でも続編が制作され続けていて、人気はもちろん知名度も高いシリーズなのですが、1990年といえば『ドラゴンクエストⅣ』『ウィザードリイⅢ』『魍魎戦記MADARA』『ファイナルファンタジーⅢ』とファミコンオリュンポスの神々降臨の年だったので、僕は全く興味がなかったというのが本当です。
ただし、これだけは付け加えてフォローしたいのですが、データイーストの新作ソフトは当時放送されていた『ファミっ子大集合』内の必見コーナー”最新ソフト情報”で必ず紹介されていたことと『ファミリーコンピュータMagazine』などの紹介で神宮寺三郎の存在と『時の過ぎゆくままに』という新作が出るんだな、ということはちゃんと知っていました。
それでも学校の友達や近所の友達との間で神宮寺三郎の話題が出たことはなかったです。すいません。
さてエンディングのスタッフロールから『時の過ぎゆくままに』の制作スタッフを見てみますと・・・これ、劇場映画の雰囲気を出したかったんだと思うんですけど、担当名が「監督」とか「指揮」とか日本語表記になってるんです。映画みたいでかっこいいんですけど、他のゲームと整合性もとりたいので、カタカナ表記で代表的なスタッフの方々ご紹介します。
プロデューサーに竹内倫さん、ディレクターに吉田穂積さん、シナリオに野島一成さん、音楽に酒井省吾さん、浜田誠一さん、そしてデザインは寺田克也さん、という布陣でございます。
そうなんです。野島一成さんがシナリオなんですね。言わずと知れた名作ファイナルファンタジーⅦやXのシナリオを書かれた方です。当時野島さんはまだデータイーストの社員で『探偵 神宮寺三郎 危険な二人』のシナリオも担当されています。僕は驚きました。
竹内倫さんは当時データイーストの宣伝や広報といった営業部門の方だったらしいのですが、やはりファミコンバブル期の忙しさからか制作にもまわって寺田克也さん等と共に「かっこいいクールな神宮寺」というイメージから神宮寺三郎を作り上げていったそうです。
つまり、竹内倫さんと寺田克也さんが事実上神宮寺三郎の生みの親なんです。
そして音楽の酒井省吾さんは1996年からHAL研究所に所属されていて、ダーリン糸井の『MOTHER3』で音楽を担当されている方です。確かに『時の過ぎゆくままに』のタイトル音楽は優しく温かいメロディーでHAL研究所感ありますよね。
浜田誠一さんは『夢の終わりに』で音楽を担当された方で、少し調べると方々で見られます。一時期の長渕みたいにいつもバンダナです。
『探偵 神宮寺三郎シリーズ』は新章と銘打って『ダイダロス:ジ・アウェイクニング・オブ・ゴールデンジャズ』という長ったらしい名前を付けた新作が2018年にリリースされています。
僕ももちろん遊んでみました。明らかにかっこつけてて逆にかなりダサいタイトル通りのゲームでした。イラストや音楽は良かったんですけど、肝心のシナリオやシステムがよくわかんないんです。この辺の話は一旦横に置いといて・・・先に進みます。
さて、本題はFC版『時の過ぎゆくままに』 です。本作は神宮寺三郎シリーズの第4作にあたりファミコンの神宮寺としては最後の作品になります。ただし、神宮寺三郎シリーズはファミコンディスクシステム(以下FDS)でスタートしていて、『新宿中央公園殺人事件』と『危険な二人 前編・後編』はFDSなので、ロムカセットとしては第2作になります。
な〜んだそんなこと、と思うかもしれませんが『時の過ぎゆくままに』はもちろん、神宮寺三郎を考える上でこの話は重要です。
どういうことかと言いますと、要するに何故FDSでスタートしているのかというと容量制限の問題があったわけです。シンプルにロムよりFDSの方が容量が大きかったんですね。
神宮寺シリーズとハード容量の関係は非常に興味深いところで、ハードの進化に伴って増えた容量がそのままゲームの面白さを増やすかというと、そんなことは全くないよってのがわかるシリーズの好例だと思います。特に『時の過ぎゆくままに』はその点で絶品です。
というわけで、前置き話はいい加減に切り上げて始めたいと思います。神宮寺は僕の2つ年上の姉が大好きで、姉のハマるゲームってどんなかしら? と、携帯アプリ版の神宮寺から僕もちょこちょこ遊ぶようになった経緯があります。今回もいつも通り長編となりますが、神宮寺三郎全体を巨大な事件と捉えてじっくりと謎解きしてみましたので、お暇潰しにお付き合いください。ということで行ってみましょう! それではレッツゴー!!
『探偵 神宮寺三郎』はアドベンチャーゲーム初のキャラゲーだった 〜AVGの歴史から見る神宮寺三郎〜
さてさて、神宮寺三郎っていうとAVGなんですけど、先ず僕が最初にお話ししたいのは「アドベンチャーゲーム」って変なジャンル名だなって思ったことありませんか?ってことなんです。
僕は子供の頃に『レイダース/失われたアーク』(1981)とか『グーニーズ』(1985)とかの冒険映画からアドベンチャーというカタカナ語を覚えて、これは「冒険」をイメージする言葉なんだな、という感覚を持っていました。
そして何といっても『ドラゴンボール』のテレビ放送が1986年に始まるとOPの歌が『摩訶不思議アドベンチャー』だったので、アドベンチャー=大冒険と認識するわけです。
80年代はアニメにしろ、漫画にしろ、駄菓子屋のおもちゃとか食玩とか、それこそ映画やドラマに遊園地のアトラクションなどもファンタジックな冒険感がある制作物がたくさんありました。ですから自然とアドベンチャーは冒険なんだ、ということは中学で英語の授業を受けずとも肌で感じていたんです。
アドベンチャーといえばジャングル! 谷! 川! ワニ! 洞窟! コウモリ! 原住民!! そんなイメージを持っているところにあのゲーム画面ですからね。あれをいとこの家で初めて見たときは、ま〜ビックリしました。
「なんじゃこれは・・・。すんげ〜つまんなそう」ってほんっとに思いましたから僕は。正直、あの画面の後に場所もジャングル的な場所に移動して「大冒険」があるのかしらん、とマジに思っていました。
あの画面
それから何年か後です。実家にファミカセを兄弟でしまっていた引き出しがあったのですが、そこで『めぞん一刻』を見つけるんです。これをこっそりやってみたら本当に面白くて、原作を知らない僕が最後までふわ〜っとやってしまったんですね。
その前に『えりかとさとるの夢冒険』とか『じゃりん子チエ』とかも少しは遊んでいたのですが、エンディングまで遊んだのは『めぞん一刻』が初めてだったんです。それでもやっぱり、心のどこかで「これがアドベンチャーって、おいおーい」と違和感が残る。
前置きが長くなりましたが、要するに・・・
アドベンチャーゲームはなんで”アドベンチャー”になったんだよ!
って話です。テキストゲームなんじゃね? っていう、はい。
というわけで、AVGの歴史をざっくりと調べてみました。
■まずはアドベンチャーゲームの歴史をざっくり知ろう。
1958年2月、米国は軍事利用のための先端技術を研究、そして新たに開発するための組織としてAdvanced Research Projects Agency、高等研究計画局・・・通称ARPA。
「アーパを発足した・・・」
「後のDARPAだな。国防高等研究計画局・・・ダ〜パ!」
「その通りだスネーク!」
とか言いたくなるレベルでメタルギアな話ですが、このARPAって機関がお金出してアーパネットっていう今のインターネットっぽいことを作ったんです。利用者は研究者とか開発者とか一部の学生さんだったらしいんですけど、そのネット上にとあるゲームがアップされます。
『Colossal Cave Adventure』(1975)
『コロッサル・ケーブ・アドベンチャー』
アドベンチャーって言ってるやんけ〜、やんけ〜、せやんけワレ〜!! というわけでいきなり語源の登場なんですけど、このゲームがどういうゲームだったのか? ってことですよね。
先ず超大事なのはゲーム画面上に出るのはテキストだけだった、ということです。で、内容はタイトル直訳通り巨大洞窟を冒険するゲームだったそうです。そして驚きなのが、エルフ、ドワーフ、トロールなどのキャラが出てくるファンタジーなゲーム内容だったみたいなんです。
テキストだけ、洞窟探検、ファンタジーなキャラクター。この要素、思いっきりTTRPGですよね。これ、調べていて僕はちょっと感動しちゃったんですけど。どういうことかと言いますと、こういうことなんです。
アドベンチャーゲームもロールプレイングゲームと同様に起源は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)にあった
ってことだったんです。前述のアーパネットの開発者の一人にウィリアム・クラウザーさんというプログラマーがいて、この方の趣味が洞窟探検だったそうなんです。
趣味が洞窟探検って冗談だろ? って感じですがアメリカでは「ケイビング」という名前でスポーツとして存在しているようです。鼻につくリア充レジャー感はありますが日本でも一応存在を確認できました。んでもって、この洞窟探検の経験を生かして上記ゲームを作っちゃったんですね。優秀!
クラウザーさんが制作に使ったコンピュータはPDP-10といってアーパネットにつながるものだったので、ネット上にこのゲームをアップしたんです。娘さんのために作ったゲームだったそうなのですが、娘さんは遠方に住んでいたのかもしれませんね。
それをスタンフォード大学でPDP-10をいじっていたトールキンとか『D&D』などのファンタジー大好き学生のドン・ウッズさんがクラウザーさんの許可の下、ファンタジー要素ガンガンに改良して、どんどん噂が広まっていったそうなんです。
この『コロッサル・ケーブ・アドベンチャー』シンプルに『アドベンチャー』と呼ばれていたそうで、言わずもがなこのゲームがAVGの元祖にして語源になりましたとさ・・・ということだったんですねえ。
その後はマサチューセッツ工科大学のメサクサ頭のよろしい4人が『コロッサル・ケーブ・アドベンチャー』にインスパイアされて『ゾーク(Zork)』(1980)というゲームを作ってウハウハしたり、はたまたゲーム画面に絵が出る世界初のAVG『ミステリーハウス(Mystery House)』(1980)をアメリカの夫婦が作ってウハウハしたりと、一気にAVGが商業にのっかってくるわけです。
上記2作品の誕生秘話も非常に面白いのですがそっちも紹介していると神宮寺から更に遠ざかってしまうので興味のある方は調べてみて下さい。その辺も含めたAVG黎明期のことを調べてみて僕が強く感じたのは、やっぱり『D&D』って偉大だなあってことでした。
トールキンは言わずもがな北欧神話やギリシャ神話などの神話や様々な昔話がなかったらこんなにたくさんのゲームは存在しなかったことでしょうね。原点が口伝の物語ってところにロマンを感じます。う〜んマンダム。
『ポートピア連続殺人事件』はアドベンチャーゲームの歴史を変えてしまう正に事件だった
一方その頃の日本です。はい、後のゲーム帝国ですから、我が日本国はね。日本のギークがAVGをほっとくわけありません。
コンピュータゲームといえばアーケードゲームが主流の80年代初頭、パソコンを持つ家庭は非常に珍しいものでした。「パソコン」と呼ばずに「マイコン」と呼んでいた時代なんですけど、僕の実家の近所にもマイコンを持っているお宅が確かにありました。
当時のパソコンは高価な品物だったので、そもそもお仕事で使ったことがある人や必要な人『月刊アスキー』とかを読んでいてパソコンで何ができるかを知っているような人でないと「欲しいとも思わない。そもそも何に使うかわからないよ」って品物でした。
これって、今でこそインターネットが普及しているので、パソコンやスマホを何に使うかわからないって方は本当に少ないと思うんですけど、当時はコンピュータを使える人の方が確実に少数派だったんです。
その少数派の間でNECのPC-8801とかシャープのMZ-2000といったパソコンが流行っていて、当然上述のAVGも遊んでいるわけですね。日本のすごいところは黎明期のゲームに感動した人たちが俺も俺もテレオモって感じで新しいゲームをバンバン作り上げた想像力にあると思います。
もちろんNECなどの企業の恩恵もあるし、日本が経済的に裕福だったからという条件付きではありますが、後のゲーム業界で活躍する偉人はほとんどこの頃の少数派に入っていた人達だったんです。そんな中にあの巨人もいらっしゃいました。
はい。堀井雄二さんです。
「犯人はヤス」あまりにも有名なネタバレですよね。なんなら元ネタのゲームを知らなくてもこれだけはネタバレを揶揄するネットスラングになって独り歩きしている感があります。
というわけでレジェンドゲームの登場です。
『ポートピア連続殺人事件』(1985)
でございます。実は『ポートピア〜』は85年にファミコン版が出る前、83年にパソコン版が出ているんです。それでですね、このパソコン版とファミコン版にはもん〜のすごい違いがあるんですけど、その違いが革命的だったんです。
もう本当にAVGの歴史の転換点なのでレボリューションです。無血革命です。その違いとは・・・
ファミコン版『ポートピア連続殺人事件』はコマンド選択式を採用した
ということなんです。なんのこっチャイナ! と茶魔語でツッコミたくなってしまった方もいらっしゃると思いますので、ご説明致します。
皆さんはAVGといったらどんなゲームをイメージされますか? 基本的には「見る」「聞く」「調べる」「持ち物」「移動」などのコマンドがあって、それらを一つ一つ選択してテキストの変化を探していくゲーム、と理解されていますよね。僕も同じです。
『時の過ぎゆくままに』はもちろんのこと、最新作の『ダイダロス』もアレンジしてある風に見えて思いっきりこの形になっています。要するにAVGをAVGたらしめているのはコマンド選択式なんですよね。
ところが、この当たり前のように我々が持つイメージ。AVGといったらコマンドを選択して進めていくゲームだぜってこの常識。なんと堀井雄二さんが広めたことだったんです。
どういうことかと言いますと。前述の『コロッサル〜』も『ゾーク』も『ミステリーハウス』もコマンド選択式のゲームではないんです。83年に発表された『ポートピア〜』のパソコン版もコマンド選択式じゃない。
ほんじゃあなんなのさって話ですが、この頃のAVGはコマンド入力式のゲームだったんです! なんだそれ~!
ちょっと僕は衝撃を受けたんですけど、コマンド入力式のAVGは「見る」「調べる」などのコマンドをわざわざタイピングすることで行うんです。
見ていただくとわかりやすいと思うので、こいつを見て下さい。
あなたは公園にいます。どうしますか?
「ベンチ 調べる」
ベンチにはおじいさんが座っています。
「おじいさん 見る」
おじいさんはタバコを燻らせています。
「おじいさん 殴る」
それはやめておきましょう。
「おじいさん 蹴る」
それはやめておきましょう。
「おじいさん 調べる」
おじいさんはライターを探しているようです。
はい。こんな感じです。上記のカッコの中がタイプしたコマンドを模したものなんですが、お分かり頂けたでしょうか。とまあ、コマンド入力式のAVGとは行動をタイピング入力して進めていくゲームだったんですね。このことで何が起きているのか、そこが重要なんです。
これ、シンプルに面倒臭いですよね。実は、選択ではなくプレイヤーにコマンドを入力させることで長くゲームを楽しんでもらうという意図があったそうです。
当時は容量の問題でゲーム自体が短かったので何度も遊べるアクションやシューティングと異なって、一度クリアするとポイされてしまうことがAVGの弱点でした。その弱点を補う苦肉の策がコマンド入力式だった、ということだそうです。なるほど~。
しかしです。堀井雄二さんはファミコン『ポートピア連続殺人事件』を制作するにあたってコマンド選択式を採用、そしてゲームは大ヒッツ! というわけです。
まあファミコンは十字キーとボタン二つしかないので当たり前といえば当たり前なのですが、このファミコン『ポートピア~』のヒットを受けて後発のAVGもコマンド選択式になっていった、ということだったんです。
と、ここまではAVGの歴史を調べていくと大体出てくる話。いわゆる正史に当たる部分です。ところがAVGにとってものすご〜く大事な変化が『ポートピア〜』のお手柄によって、もう一つ為されているんです。それはずばり、
『ポートピア連続殺人事件』以後、AVGは推理モノが主流になった
そうなんです。思い出して欲しいのですが、AVGの始まりは『D&D』に習ったファンタジーゲームでした。後発の『ゾーク』も同じです。ところが『ミステリーハウス』はアガサ・クリスティの推理小説をモチーフにした推理ゲームだったんです。
これ、本当に面白い話なんですが『ミステリーハウス』を制作したウィリアムス夫妻はゲーム自体をファンタジーと大きな括りで見ていたようなのですが『ミステリーハウス』を謎解き推理モノにしたどでかい理由は「時間稼ぎに謎解きは最適だった」ということに間違いありません。
AVGにとって鬼門だった容量制限の問題から推理モノは生まれたんです。なんでもウィリアムス夫妻は『コロッサル〜』が大好きで大好きで仕方なかったらしいのですが「これ。超面白いわ〜。こんなゲーム今までなかったっしょ? スゲ〜おもしれ〜。だけど超短いわ〜。もっと長くやりたいのに〜」と、推理モノAVGを自ら作った。ということだったんです。
そして、この『ミステリーハウス』の流れに『ポートピア〜』もあるわけなんですね。だけど本来であれば、ファンタジーなAVGも沢山作られてよかったはずなのに『ポートピア〜』以後のAVGは謎解き推理モノが完全に主流になってしまいます。
確かに『サラダの国のトマト姫』(84年)や『ふぁみこんむかし話 新•鬼ヶ島』(87年)などもありますが、少なくともファミコンAVGの歴史上は明白に謎解き推理モノが主流になっていきます。実はここに、ゲーム史にとって超重大な理由が隠されているのですが、この話はまた別の機会にお話しします。すいません。
ファミコン『ポートピア〜』は容量制限の問題を回避するために「3D迷路」「カーソルで画面探索」なども取り入れています。特にカーソルで画面を探索するシステムはその後のAVGにとって重要なシステムになるので『ポートピア〜』が如何にレジェンダリーなゲームか分かる要素の一つだと思います。
さあさあ、ファミコン『ポートピア〜』が発表された年の翌年1986年の2月、AVGの容量制限にとって救世主が登場しますよ。ロムカセットよりも大容量をウリにしたファミコンディスクシステムの爆誕でございます。
ここでいよいよ神宮寺三郎の登場です。
アドベンチャーゲームの歴史上に「神宮寺三郎」が登場したのは1987年の4月24日、プラットフォームはFDSでした。なんともタイミングが悪いことにこの1987年の4月は頭の2日にAVGの名作がロムカセットで発表されているんです。
ずばり『さんまの名探偵』です。このゲームは言わずと知れた人気タレントの明石家さんまさんを主人公に据えて、当時知名度の高かったタレントを次々に登場させるという内容で人気を博しました。
しかも『さんまの名探偵』はAVGとしてもかなり完成度が高くて、全然イロモノゲームじゃないんです。容量制限の話とかなんだったの? って思うレベルで名作なので、神宮寺の船出は肩身の狭いものになってしまったことでしょう。→ タバコすう
だがしかし、だがしかしですよ。神宮寺にはこの『新宿中央公園殺人事件』が発表された時点でAVGの雄として活躍する資格を既に備えていたんですね。そこが本当にすごかった。言ってもさんまさんはタレントですから、ギャラとか権利とかめんどくさいことになっちゃいますからね。どういうことかと言うとですね、つまり・・・
『探偵 神宮寺三郎』は神宮寺三郎というオリジナルキャラクターが圧倒的な存在だった
もうこれに尽きるんです。はっきり言って神宮寺三郎シリーズにおいて最も白眉な点はまごうこと無き明白さを持って「神宮寺三郎」というキャラクターなんです。如何にこのキャラクターが優れているのかをご説明しますね。
圧倒的存在「神宮寺三郎」の凄さとは!?
先ずもって確認しておきたいのは、ゲーム史に残る素晴らしいこのキャラクターを生み出したのは元データイースト社員の竹内倫さんと孤高のラクガキング寺田克也さんだよ。ということです。
もちろん、その他にも寺田さんと打ち合わせをしていた方や当時のデータイーストのスタッフの方々もたくさん関わっていらっしゃることは想像するに難しくはないのですが、特に僕が強調すべきだと思うのはこのお二人がいなかったら生まれていなかったキャラだよね、という点です。創造主に敬意を払いつついってみましょう。
■超ステレオタイプなハードボイルド像がすごい!! 神宮寺三郎はハードボイルド探偵のイデアだ!
ちょっと大げさだねって思われるかもしれないんですけど、いやいや本当に凄いんです。神宮寺三郎と言えばハードボイルドですよね。と、ここでハードボイルドの意味を確認しておく必要があると思います。
ハードボイルドってなんぞ? ということを無視しては神宮寺三郎の面白さを味わい尽くせなくなっちゃうんじゃないかと思うので、ちょっと再確認しておきます。
先ず広辞苑で見てみますと・・・
ハード・ボイルド【hard-boiled】
(「固ゆでの卵」の意から転じて、冷徹・非情の意)
①文学上、感情を交えず、客観的な態度・文体で事実を描写する手法。ヘミングウェーらによって確立された。
②推理小説の一ジャンル。①の手法を応用し、非情な探偵を主人公とするもの。ハメット・チャンドラーらが代表的な作家。
出典:広辞苑 第五版
とあります。う〜ん。ふ〜む。要するに小説の手法の一つ。小説のジャンルの一つ。ってことだったんですねえ。しかも思いっきり冷徹・非情の意味って書いてありますね。意外です。
つまり、感情表現のない冷徹で非情な文体の小説 又は その文体で非情な探偵を主人公とした推理小説ってことだったんですね。意外です。なんというか一言で言うと「カタブツ」くらいの性格のことだと思ってました。
ということは、普段の会話での・・・
「あの人ってハードボイルドだよね」
「うん、わかる。なんか石とか食べてそう」
「メタリック軍曹ってハードボイルドだよね」
「確かに。開口一番ウェルカムはやばいよね」
というような使い方をしている際の「ハードボイルド」は「ハードボイルド小説の文体のように冷徹で非情だよね」とか「ハードボイルド推理小説の探偵みたいに冷徹で非情だね」という意味だった、ということなんです。こいつはちょっと驚きですよね。
この真の意味でのハードボイルドに当てはまる男が僕には三人しか思い浮かびません。言ってみれば真ハードボイルドメンでございます。その三人とは
ゴルゴ13のデューク東郷
メタリック軍曹
これをご覧になったみなさんにおかれましては「え? 全然神宮寺はハードボイルドちゃうやん! ハードボイルドって殺し屋やんけ〜!」と叫びたくなったことと思います。
でも大丈夫。ちょっと一回、皆さんの「ハードボイルド小説の探偵」のイメージを考えてみてください。ハードボイルドと言われて連想するものでいいと思うんです。
僕の場合は・・・
・葉巻orタバコ
・ライター
・金髪美女
・トレンチコート
・モノクロ
・コーヒー
・ビールではない強めの酒
・無表情
・ブラインド
・バー
と、こんなところでしょうか、皆さんはどうですか? 大体似たようなイメージを持たれるのではないでしょうか。これです。これが超大事。大方の人間が似たようなイメージを持っていると言う点。
これ、ハードボイルドと言う言葉が辞書に載っていようといまいと確かに持っているイメージなんです。ここでは誤用であるとか間違ってるとか、そう言うことは抜きにして事実としてあるよね、それは否定できないよね、ってとこが肝心。
んでね。神宮寺三郎というキャラクターはこのイメージを追いかけて追いかけて、膨らませて膨らませて、寺田克也さんのキャラクターデザインに結晶させた人物なんです。
1998年5月に発行されたデータイースト公認の本【『探偵 神宮寺三郎 夢の終わりに』全記録】の中でのインタビューを紹介します。お二人ともにこんなことを仰っています。
「ー 先ず、最初にお聞きしたいのが、神宮寺を作る際に、モデルとなる人物などがいたのか?という点なんですが・・・
竹内:特にモデルというのはいなかったですね。シナリオなどのテキスト設定を見せた後、寺田さんの書いた絵に応じてキャラクターを組み立てていった結果、ハードボイルドの感じがする今の神宮寺ができたんです。最初、寺田さんとはTVの「サスペンス劇場」みたいな導入部にしよう・・・とか、いろんな話もしたんですよ。
そういう意味では、神宮寺の創造に関しては、寺田さんの絵が持つ役割が大きかったですね。そこから全てが派生したというか・・・。
ただ、質問のようにフィリップ・マーロウなどハードボイルド小説の探偵を意識するような部分的な点は少なかれあったとは思います。探偵物を作るという構想上で、ステロタイプ的な発想が結構あったんで、その結果、無意識的なところがあったのかもしれないですね。」
「ー 最初『神宮寺三郎』を描くにあたって、モデルにした人物などはいるのでしょうか?
寺田:いません。いませんけど、当時の取扱説明書などを手がけられたデザイナーの方と何作目かの仕事の時に初めてお会いしたら、そのかたがワタシの描く神宮寺三郎にそっくりだったので驚きました。」
引用:じゅげむ編集部・murmur's GROUP(1998).『探偵 神宮寺三郎 夢の終わりに』全記録〜JINGUJI SABURO CHRONICLE '87-'98 112-115.
お二人の応答のポイントをまとめます。
1 神宮寺三郎にモデルはいない。
1寺田さんの絵からイメージを発展させた。
1探偵に対するステレオタイプな発想は確かにあった。
シナリオを読んで寺田さんが描いたキャラクターに、僕や読者さんを含めた誰もが持つような紋切り型ハードボイルドのイメージを肉付けして作られたのが神宮寺三郎というキャラクターなんですね。
言い換えると”ハードボイルドと言う言葉が持つイメージを体現する男が神宮寺三郎”と言うことなんです。これって要するにハードボイルドのイデアってことですから、上述の辞書的な意味よりも強固なイメージとして立ち上がって当然なんです。
イデアって言う言葉の意味を超簡単に説明します。まん丸を頭ん中でイメージしてください。もう本当に丸です。真円です。
はい。ところが現実世界に真円は存在しないんですね。月はクレーターでボコボコだし、紙に書いた円は顕微鏡で見ればガタガタです。地球儀やゴルフボールやパチンコ玉だって同じですよね。
だけど円が歪んでいればすぐ、あ、真円じゃない。歪んだ丸だねってわかるでしょ? それは円のイデアを皆さんが心に持っているからなんです。説明終わり。
これね、キャラクターとして無敵です。キャラとして立ちまくってるので、シナリオは書きたい放題だと思います。極端なことを言えばどんな事件でも構わないので”出来事”の渦中に神宮寺のような強いキャラクターをを放り込むと、ちゃんと神宮寺としてキャラクターがお芝居しちゃうんです。
わかりやすくいうと「神宮寺ならこういう時こうするよね」ってのがどんどん出てくる。これがどれだけ凄いことかどうかはこんなに沢山のシリーズ作品が出ていることがもうその証明になっていると思います。
ここが重要なんですが、キャラが弱い主人公をシリーズ化してしまうと必ずどこかで個性がブレてくるので普通は難しいんです。
神宮寺三郎という男が持つ強烈なキャラクターが神宮寺シリーズの人気の由縁であると言うことができると思います。いや、もう断言できます。
だからね、シナリオ担当が変わっても寺田克也さんの原案キャラクター像さえ守っていれば、神宮寺三郎シリーズとして機能しちゃうんです。そして、このような強いキャラクターを主人公に据えたAVGは神宮寺シリーズが初めてだったんです。
というわけでAVGの歴史から見た神宮寺の結論です。
神宮寺三郎はアドベンチャーゲーム初のキャラゲーだった。
ありがとうございました。う~ん、ここまでくると”ダイダロス”がなんでイマイチなのか見えてきた気がしますねえ。
ちなみにですが、探偵のステレオタイプとして必ずと言っていいほど名前が上がるチャンドラーのフィリップ・マーロウですが、これは要するに映画でのハンフリー・ボガートが持つイメージとされています。
今回神宮寺三郎をやるにあたって僕も『マルタの鷹』(1941)と『三つ数えろ』(1946)をamazonのプライムビデオで観てみました。結論から言うと冷酷で非情な男には全然見えなかったっす。
確かに落ち着いた人柄で大声とか出さなそうな人物ではあるんですけど、女好きだし、おしゃべりだし、冷酷で非情とはちょっと言いづらいと僕は感じました。まあ原作小説の方ではガチガチのハードボイルドなのかもしれませんね。
僕がこのハンフリー・ボガートが演じる探偵を観たのはこれが生まれて初めてなんです。だけどハードボイルドのイメージはかなり昔から持っていました。不思議ですよね。
知らず知らずのうちに刑事コロンボとかポルコ・ロッソなどのフィリップ・マーロウの派生型みたいなキャラから様々なハードボイルド的イメージを抽出していたのかもしれません。人間って不思議ですなあ。
『時の過ぎゆくままに・・・』は神宮寺三郎シリーズの中では異色作
はい。というわけでここからが本題ですね。僕も『時の過ぎゆくままに』を紐解くにあたって、ここまで調べるべき前置きがあるとは思っていませんでした。長々とすいません。
ここからは『時の過ぎゆくままに』はどこが面白いのかを、話していきたいと思います。
先ずはこちらをご覧ください。
1 新宿中央公園殺人事件 1987年4月24日発売 ディスクシステム
2 横浜港連続殺人事件 1988年2月26日発売 ロムカセット
3 危険な二人・前編 1988年12月9日発売 ディスクシステム
3’ 危険な二人・後編 1989年2月10日発売 ディスクシステム
4 時の過ぎゆくままに 1990年9月28日発売 ロムカセット
さんざんっぱら容量制限の問題を話しておいて第二作品目でいきなりロムカセットでの発売になっています。なにゆえに。
実はですね。シリーズ第二作『横浜港連続殺人事件』が発売された1988年にはロムカセットの容量自体も増えていたし、FDSの発売から二年が過ぎて違法のディスクシステムコピーが横行していたのが理由だそうです。
『横浜港連続殺人事件』をプレイしてみると、確かに発色数はFDSの『新宿中央公園~』と『危険な二人』に比べると少ないのですが、一言でいうとコンパクトでテンポがいい! というのが僕の印象です。
余談ですが、この作品は音楽もかっこいいし、舞台が横浜ということもあって僕も好きなんですけど、ちょっと一つだけ横浜市在住の僕がどうしても言っておかねばならないことがあるんです。
エンディングのこのシーン、潮騒が響いて大変に美しいのですが、断言します。このマリンタワー周辺の中区山下町では絶対に潮騒は聞こえません。この作品から横浜に憧れて、当地へ遊びに来られる際にはご注意ください。
※追記・強めの風が吹いている日に子供を連れて山下公園の海沿いを歩いていたら、しっかり潮騒が聞こえることがわかりました。完全に僕の誤りです。ごめんなさい。
話を戻しまして『時の過ぎゆくままに』です。というわけで先の理由で本作もロムカセットで発売されたのですが、この作品は思いっきり容量制限を意識して作ってあるんです。
やっぱりすごい野島一成さんのシナリオ
はい。本作はなんといってもセピアですよ。もうね。ゲームボーイかよっ! てツッコミたくなるくらい全編セピア色なんです。
これ、かなり勇気のいることだったと思います。足し引きでいうところの引きのアイディアですよね。だけどやっぱり段々と物語に引き込まれていくにつれて気にならなくなるんですね。これはもう野島一成さんあっぱれ! ってことになるんじゃないでしょうか。
正直なことをいうと初野島作品としての『危険な二人』は登場人物が多くて何がなんだかわからなくなってくるんです。そして理解してもそんなに面白い話でもないかなあ、って感じで。ごめんなさい。
だがしかしそこは後の大シナリオライターですからね、ちゃんとブラッシュアップして『時の過ぎゆくままに』を仕上げてくるところに大物になる男の仕事っぷりを感じます。
『時の過ぎゆくままに』のシナリオは神宮寺シリーズの中でもかなり異色作です。大きな違いとしては、この作品。死人が出ないんです。
死人の出ないシナリオは難しい
これがどれだけ凄いことかを説明するにはどうしたらよいのか・・・。
主人公は探偵でハードボイルドです。舞台は新宿。刑事が出てきて、賢く美人の助手が出てきて、事件が起きて、謎があって盛り上がって感動があって解決に向かう。この要素。
この要素を入れて物語を作るのにあたって「人が死なない」という縛りで面白く作るのは正直ノーマルな頭脳には不可能に近いと思います。試しに身の回りにある漫画、小説、映画、ドラマなどでスリリングなサスペンスがある創作物であなたのお気に入りや人気作品を思い出してください。
いかがですか? ほとんどの作品で人が死んでいることと思います。人の死は物語にとってそれほど強烈なフックになるんです。それがない! これは中々にすごいことです。
物語にとって必要不可欠な「これからどうなるの?」っていうサスペンスを入れようとして物語をつくっていくと、必ずといっていいほど起承転結、序破急のどこかに死は絡めたくなるものですよ。それがない!
んでですね、この作品ではサスペンスをけんいちくんの病気でうま~く喚起させていくんです。
死にそうで死なない、何か起こりそうで起こらない、これはもうヒッチコックの『裏窓』ですよ。
次にこの作品。登場人物が少ないんです。だから物語がわかりやすい。やってることはただの家族のもめ事ですから、とにかくわかりやすいんです。
一応は褒めポイントばかりではなくダメな点もやっぱりあるにはあって、まずはモーションアニメが一切ない。このせいでクライマックスの盛り上がりに欠けるんですね。『横浜港~』は百裂拳炸裂のシーンがあったから評価が上がっている部分あると思いますから。
あぁぁたたたたたたっ!!
次にこれは僕がかなり気になったポイントなのですがけんいちくんが小賢しいってところです。この子ね。見た目は確かにかわいいんですけど、口を割ると全然かわいくないんですよ。これは問題。
洋子も母親も同列に「すき・・・」ってねえ。それに「おじちゃん、おねがいします」なんて言える子供はなかなかいないというか、確実に曲者です。
と、これくらいしか揚げ足をとる部分もなく、本当にいい点ばかりなのが『時の過ぎゆくままに』なんです。
洋子くんの役割はいるだけでもいい
ドット絵も素晴らしいですよね。りょうすけに飛び掛かるズタのシーンは逸品です。このりょうすけがかなりラスボス感があってしっかりとクライマックスしてます。りょうすけとのバトルは間違いなく名演出です。
狂言回しとしての熊野さんの役割も絶妙ですし、洋子もこれまでの作品と比べて明らかにキャラ立ちしていて良いです。というか登場人物全員が実在感を持っていて好感が持てます。
御苑洋子に関しては様々な意見があると思うのですが、僕の考える洋子のたった一つの重要な役割は「洋子が認める男して神宮寺に説得力を持たせる」という点に尽きると思います。
洋子と神宮寺の関係は謎です。謎なんですけど語学に達者で知性もあって美人の御苑洋子が慕っている、ということは神宮寺という男は信頼できる何かがあるに違いない。となって説得力が出てきます。極端な話、洋子がいるだけで神宮寺が優秀な探偵に見えるんです。これが大事。というか洋子はこの役目が全てだと僕は思います。
ほら、この辺の話をしていくとどんどん”ダイダロス”がダメな理由が見えてきますよね。
それと『時の過ぎゆくままに』は全体的にポップなんです。テキストもテンポよく変化していくのでイライラもあまりないですし、このポップさはどこから来てるのかなって考えてみると、すべての登場人物に振り回される神宮寺三郎にあると思います。
この作品の神宮寺はケンシロウ感というかフランケン感が浮き彫りになっていて、コメディ的な匂いもするんです。これも本当にすごい点。
神宮寺みたいな強烈なキャラクターをストーリーで振り回すと普通はキャラがブレブレになっちゃうと思います。例えて言えば”ダイダロス”の「サブローパーンチ!」みたいなね。
だけど無口なフランケンに徹するように作ることでキャラがブレずにポップな感じが出るんだなあと、僕は驚きました。これ、神宮寺の意志を中心にして話を回したらこんなにポップな印象を受ける作品にはならなかったと思いますよ。それこそ”ダイダロス”みたいになっていたと思います。
というわけで、まとめます。
『時の過ぎゆくままに』は容量制限の問題に発色数や登場人物、アニメーションをあえて引くというアイディアで対応しつつ、死人を出さずにサスペンスを喚起させるという野島一成さんの優れたシナリオを持ち、わかりやすくポップでテンポもいい素晴らしい作品だよ。
と、言うことができると思います。
なんていうかですね。これまでの作品、いやなんならその後の神宮寺作品も含めて神宮寺シリーズは基本的に『火曜サスペンス劇場』なんですが、この『時の過ぎゆくままに』だけは『花王 愛の劇場』なんです。
というわけで、
FC版『探偵 神宮寺三郎 時の過ぎゆくままに・・・ 』は日本が誇る名作アドベンチャーゲームだと思います。再神作です!
なにとぞ再プレイしてください!!
ここからはネタばれもあるよ!
ダイダロス問題発生! 神宮寺ファンの未来が危ない!?
ここまで読んでいただいたみなさんであれば”ダイダロス”の問題点にはお気づきのことと思いますが、最後にこの問題に触れておしまいにしたいと思います。
『ダイダロス:ジ・アウェイクニング・オブ・ゴールデンジャズ』ですって、長い名前ですね。もちろんみなさんも遊ばれたことと思います。
僕ももちろん遊びましたよ。最初は「いいじゃん!いいじゃん! ウェルメイドな感じがビンビンするよ」って盛り上がっていたのですが。いやあ、なかなかどうして。
完全にこの稿は”ダイダロス”を遊んだ人に向けて書いているので、未プレイの方はここから先は読まない方がよいかもしれません。百聞は一見に如かずという通り、先ずはご自身で遊んでみるのが一番いいと思います。
ではでは、僕がダイダロスに対して一番思ったことをいきなり一言で言います。
これ未完成で発売したでしょ?
ね。そうだね? ってことです。なんとなくこれで全部説明できちゃう気がしないでもないが、どうなんでしょう。
ともかく、僕がダイダロスに対してダメダメだなあと思った部分を挙げていきます。
1.音声が中途半端
これがマジでストレスで、テキストと音声が合ってないんです。例えばですね。
「ここは新宿歌舞伎町、ここに神宮寺探偵事務所がある。助手の御苑洋子はいるかな」というテキストがあったら、こっちが”ここは新宿歌舞伎”くらいまでしか読んでない段階で耳に「洋子はいるかな」って音声が入ってくる。完全にノイズです。せっかく音楽は傑作なのにもったいない!
1.スタンスが意味ない
ね。そう思いましたよね? これただのコマンド選択じゃんっていうね。
1.思考の樹が意味ない
これ。ヒントにもメモにもなってないよ。なにこれ? YAMETE!
1.演出が少ない
演出が少なすぎですよね。禅之助さんの止め絵だけってどうなんでしょう。このせいで各章末のエピローグで何が起こっているのか不明になりがち。せっかく禅之助さんの画力が優れていて素敵でもこれじゃあ台無しですよ。
1.シナリオがわけわからない
正直『夢の終わりに』が傑作とされているからって、その伏線がこんなんじゃダメでしょ? 洋子の過去の彼氏ってこの人? え? ロリコンってこと? ん?
1.神宮寺サブローの顔がわからない
これ、明白にミスだと思います。このゲームの最大のミスといってもいいと僕は思います。これねえ、絶対にゲーム画面でテキストの横にサブローの顔を載せておくべきでしょう。あまつさえ今までのキャラクター像を捨てて新シリーズ行くって意気込んでんなら、主人公の顏売らないでどーすんのよ! って話でしょう。これ本当にびっくりするんですけど本編では全然出てこないからサブローがどんな表情してんのかわからんし、どんな顏かなーってパッケージ見てみたら横顔・・・っておい!
1.神宮寺三郎にまったくもってつながっていない
なぜ、この若い青年が新宿で探偵になって、洋子を助手にして、タバコを吸うようになったのかは一切描かれていません。それなのに最後に「俺はタバコに火をつけた」とかいって不意に出して「ほらね、神宮寺シリーズにつながったでしょ! これがエピソードゼロだったの! ね。かっこいいでしょ?」って強引に胸倉掴んでくる感じなんですけど「納得できるかーーーーっ!!」って背負い投げですよこんなん。
というように、とにかくダメダメなダイダロスですが。本当に良い点も一つだけあって、浜田誠一さんの音楽がまじで素晴らしいんです。
ちょっとこれだけは本当に素晴らしくて、特にダンと海の見える場所にいるシーンでかかる曲を聴きながらゲーム内の海を見ていて、本当に感動して泣きそうになっちゃいました。まじです。
このシーンと音楽だけで一点突破!
なんなら、他のダメなところも目をつむれちゃうレベルで僕は好きでした。
それと禅之助さんのイラストも本当に素晴らしいです。正直なところ、神宮寺をやるにあたって寺田克也さんの『絵を描いて生きていく方法?』を読んですっかり寺田克也さんのイラストのファンになってしまい微妙な気持ちではありますが、そこも良かった点として付け加えておきたいと思います。
最後になりましたが、寺田さんは御著書の中で神宮寺三郎を描いたのは21歳の時とおっしゃっています。ソフトの発売が1987年なので、1963年生まれの寺田さんは24歳になっています。ということは発売の三年も前から神宮寺を竹内さんと作っていたのでしょうか。なんだかワクワクしますよね。
しかし、寺田さん・・・。21歳から24歳の頃に神宮寺三郎を生みだすって・・・。
天才発見!!
おまけ
神宮寺三郎に関心の薄い妻もんが常に横で『ダイダロス』を見ていました。
毎日横で見ながら・・・
このピアノの音楽がスリプルなんだけど・・・。
スリプル=眠らせる黒魔法
俺っち・・・。
ね。気になるよね。
はあ? 誰? 誰この人・・・。
ね、突然だよね・・・
このおっさんが犯人って、まんまじゃん!
だよね。
このおっさん
あ! 声はスネークだ!
それでは、また次回お会いしましょう!
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